【聖女の毒杯】本格の新規格
《その可能性はすでに考えた》の続編
奇蹟の実在の証明をしたい青髪探偵・うえおろじょう
青髪探偵の元弟子の少年探偵・八ツ星聨
金融業者で元中国黒社会の幹部・ヤオフーリン
バチカンで奇蹟認定を行う列聖省の審査委員『カヴァリエーレ枢機卿』
派手なキャラクターたちではあるが、今回の事件は地味といえば地味。それは前作「その可能性はすでに考えた」よりもということであり、推理合戦という点ではむしろ前作以上の完成度になっている。
今回は、舞台はほとんど動かず、人物も少なく限られている。なのでこの展開で「いったい何が真相か」の一点に集中できる。
第一部
婚礼の席での“大盃の回し飲み”にて
花嫁花婿と両家の親族計8人のうち、3人(と一匹)が絶命した。毒死した3人の間には、必ず誰かが飲んでおり彼らは無事なのだ。
この不可解殺人をめぐり八ツ星や生き残った関係者たちが、推理を披露する。疑いは花嫁にかかり、八ツ星がその可能性をつぶしていく。そして、普段推理しなさそうな人物までもが、罪の擦り合いをするかのように仮説を立て始めていく。
この第一部ではまだ、青髪探偵うえおろは登場せず、フーリン視点から物語を見渡すようである。しかし彼女自身の推理は披露しないのがポイントである。
第二部
事件のしばらく後、フーリンはかつての仕事仲間から呼び出される。黒社会の最高権力者シェンの身内が死んだという。
「これがあれとつながっていようとは」という事実に直面する。そしてシェンは関係者一同を拷問にかけてでも犯人を罰しようとするのである。
これをねじ伏せるのは元弟子の八ツ星か、フーリンか、それとも青髪探偵うえおろが登場するのか。
本書が評価される点
『この世に奇蹟が実在することを証明しようとする』
とはどういうことか。
奇蹟というものをどのように証明すればよいか。
「人智の及ぶ可能性をすべて否定すること」
つまり不可解な現象に対する合理的な仮説を片っ端から潰していくのである。途方もないやり方でしか証明し得ないのである。
本書では
シェンたちは被疑者の犯行の可能性を示唆するだけでよく、それに対し、その可能性が存在しないことを論証しなければならない。これを繰り返し、提示される全ての説を否定できれば、奇蹟を証明できるということである。つまり、ここにいる人物の犯行ではないことを示し続け、この事件は奇跡的に起きたのだという。
またシェンたちはかなり現実離れした推理を多々提示しており、それに対しても厳密に論証していく。
通常とは逆に「やったこと」ではなく「やっていないこと」の証明をしていくため、果てしない困難さを伴う作業でもある。
「論理が奇蹟に屈伏するのか、奇蹟が論理に覆されるのか」
という今までになかった戦いが見所である。犯人当てというより推理合戦を楽しむミステリである。
前作を読まずして本作を楽しむことはできる。しかしメインの人物像や、うえおろの「奇蹟証明」にこだわる理由・背景は前作に詰まっているため、前作から読むことをお薦めしたい。